豊田工業大学

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社会連携研究推進事業 高分子構造物性相関高度解析センター

センターの概要

平成22年度:事業発足
センター長:田代 孝二

研究の目的と社会的ニーズ

研究趣旨

 

我々の日常生活から工業製品まで必要かつ不可欠な「汎用性高分子」の工業生産量は今後さらに増大すると予想されているが、性能的には、あるレベルで飽和してしまっている。高分子科学工業に携わる誰もが危惧するように、ありふれた性能の高分子として生産し続けている限り、我が国の高分子産業は、東アジアを中心とする海外の高分子工業の波に押し流されてしまいかねない。従来の性能レベルを凌駕する「新しい」高分子材料として生まれ変わらせるためには、従来の汎用性高分子研究開発が抱える問題点を基礎科学の観点から徹底的に洗い直すこと以外にはない。高分子固体に関する従来の研究の大半は、極言すれば、広い分子量分布を持った「汚い」試料を対象としてきた。本センターが進めるプロジェクトでは、その「汚い」試料から、一定の分子量および立体規則性を有する「高度に特定された」高分子成分を各々分取し、各単一成分および意識的に制御したブレンド試料について、結晶構造、非晶構造から高次構造までを階層的に解明、物理的性質との定量的関

わりから高次構造までを階層的に解明、物理的性質との定量的関わりを見出す。そして高度制御条件下で成形加工したバルクな高分子試料の物性を評価、それを支配している構造因子を抽出し、優れた物性を発現し得る分子量、分子量分布、立体規則性の範囲を特定するとともに、かくして決定した高分子系について、成形加工品を作成し、物性を従来の試料と比較する。うまく行けば、実用化にも持っていく。

 

 この研究は、試料分離から構造同定、物性との相関解明と、徹底した精密科学手法に基づくもので、これまでの高分子固体構造物性論をさらに高度な純粋科学に引き上げるものであり、その意味でも極めて価値のある挑戦である。我々は、2005〜2009年度の5年間、私立大学学術研究高度化推進事業「高分子構造物性相関高度解析プロジェクト」を展開し、複雑な高分子の結晶構造解析や結晶化過程における構造発展機構などについて研究成果を挙げてきた。そこで培われた技術、概念、知識をあまねく活用することは、今回新たに挑戦する試みに対し重要な実施基盤を与えてくれる。

 しかし前回は、兎も角も取得できる試料を研究対象として闇雲に利用してきた(勿論、分子量分布などを知った上で)。ここで述べているような、「より性能の高い高分子を如何に創製するか」をめざした精密制御された高分子試料についての系統的研究には至らなかった。今回のプロジェクトは、汎用性高分子の「性能アップ」を通じて、本邦の高分子産業ならびに高分子科学の更なる展開を図るものである。
本プロジェクトでは、国内外の優秀な研究者からなる国際共同研究ネットワークを構築し、研究者同士の学術的国際交流を一層活性化することにも繋がり、社会貢献の観点からも意義は大きい。中でも、国際共同研究ネットワークは、優れた高分子材料開発を地球規模で実行することを狙ったもので、研究内容の重要性と共に人的交流の観点でも極めて意義深いものと考える。しかも、豊田工業大学の国際連携推進構想に完全に沿ったもので、豊田工業大学にとっても極めて大事なプロジェクトであると位置づけている。

 

研究内容

本プロジェクトの目的は上記に述べたとおりであるが、ここで強調したい点は、従来、固体高分子の構造および物性研究では分子量分布や分子量絶対値にまで立ち入った検討はほとんどなされないままであったことである。本プロジェクトでは、その点に力点を置き、様々の高分子について、出来る限り、詳細なキャラクタリゼーションをした試料の挙動を探ることで、これまで解決策の見出されなかった難題にチャレンジする。
(1)従来から市販されている種々の試料について、分子量、分子量分布、立体規則度を精度高く定量評価するとともに、結晶構造、高次組織構造を精密に調べる。各試料の力学的性質、熱的性質などを高精度に測定、構造との相関を様々の角度から検討する。結晶構造や高次構造の研究そのものは従来から行われているが、先のプロジェクトで培った様々の技術を駆使することで、遥かに精度の高い解析が出来る。必須装置としてGPC(分子量分布測定)と質量分析装置(分子量絶対値評価)を用いる。根気と時間の要する実験であるが、分別および定量解析が最も大事なポイントになる。

(2)分取した一定の特性を有する試料を複数種選び、様々の異なる処理条件下での結晶構造、高次組織構造を調べる。また各試料の力学的性質、熱的性質などを、高精度に測定、構造との相関を検討する。時によっては、自ら合成して、立体規則性や分子量分布をコントロールしたポリマーを作ることも必要になる。また、

例えばメルトからの等温結晶化過程における構造発展を時間の関数として測定し、分子量、分子量分布、立体規則性、立体規則性分布などの違いと結晶化挙動の違いの関係を精度高く調べる。この目的のために、高輝度X線回折装置と高感度X線検出器とを組み合わせたシステムならびに放射光施設を利用する。
(3)(2)で挙動を明らかにした、分子量の異なる分取試料を複数種用意し、それらの割合を意識的に制御しつつブレンドした場合の、高次構造、結晶化挙動の変化、分子鎖絡み合いの効果などを詳しく調べる。

(4)これらの試料について、成形加工時の配向状態変化を、X線散乱や振動スペクトル高速測定などの技術を駆使し、結晶構造変化、高次組織変化、球晶構造変形などの観点から調べる。同時に、これまで余り注目されていなかった非晶状態における構造変化を詳しく眺める。その手法として、動径分布関数計算、振動スペクトルを利用したランダムコイル形態変化追跡、NMRを用いた分子鎖構造の変化や熱運動性の変化を追跡する。
かくして徹底的に挙動を明らかにした一連の試料について、例えば超延伸の加工を施すなど、工業製品への成形を試みる。特定のキャラクター(分子量、分子量分布、立体規則性など)を有する高分子試料が、どこまで延伸可能であるのか、その最高延伸到達度を探る。変形時の構造変化をX線散乱や振動分光などの高速時間分解測定を実行して解明し、分子量、分子量分布、高次構造、高次構造変形過程、物性の到達度などの関わりを総合的に比べる。どの特性を有する試料が最高の性能を与えるのかを見極める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参加研究室

極限高分子材料研究室

物質工学分野(高分子ナノ複合材料)研究室

他、学外 

 

 

主要研究装置

・質量分析装置(島津SEC(GPC)-AccuSpot-AXIMA Confidence)

< 高分子質量分析>

・ゲルパーミエイションクロマトグラフィー (PL-GPC220超高温用GPCシステム)

<高分子分別>

・微小結晶用単結晶構造解析装置 (リガクVariMax-SCM)

< 高分子モデル化合物微小単結晶精密構造解析 >

・高感度2次元X線回折図形測定用検出器 (リガクPILATUS-300K)

< 高感度高速2次元X線散乱測定>

・2次元X線検出器 Hi-STAR (ブルカー) 

<X線散乱測定用検出器>

・小角光散乱装置 DYNA-3000(大塚電子)

<小角光散乱測定による球晶研究>

・単結晶構造解析用X線回折装置 R-axis Rapid-R(リガク)

< 高分子モデル化合物結晶構造解析 >

・X線粉末回折計RINT-TTR V(リガク)

<X線回折熱分析同時測定用>

・高輝度小角X線散乱装置NANO-Viewer(リガク)

< 小角X線散乱測定>

・高分子ダイナミックイメージングプレートシステム(リガク)

< 高速X線回折図形測定>

・高分子広角小角測定用多機能型X解回折システム (ブルカーDIP1000)

< 広角小角X線散乱測定>

・ラマン分光光度計 NRS-2100(日本分光)

<高分子の振動分光>

・遠赤外分光光度計 FT/IR-6100FV(日本分光)

< 高分子の低波数振動解析>

・高速スキャン型フーリエ変換赤外分光光度計 FT7000 (Varian) 

<高分子結晶化の構造変化追跡>

・2次元顕微赤外分光光度計 FastImageIR (Varian) 

<高分子フィルムの2次元イメージ>

・紫外可視近赤外分光光度計(日本分光)

< 共役高分子の構造解析>

・示差熱走査熱量計 DSCQ1000T (TAI) 

<相転移における熱変化の評価>

・熱機械測定装置 TMA(TAI) <熱膨張の測定>

・熱重量測定 TGA (TAI) <熱分解の測定 >

・並列計算機システム(ダイキン工業)

<分子の熱運動、電子状態予測>

・プローブラマン散乱装置(LASERエコバイオ)

< X線回折とラマンの同時測定用>

・原子間力顕微鏡(アサイラム)

<高分子表面における分子配列観測>

・顕微鏡用加熱冷却・延伸・せん断力印加セル(Linkam)

< 高分子結晶化・相転移現象追跡>

 



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